雪虫(ユキムシ)

雪虫(ユキムシ)

 深い雪に埋もれた長い長い時間から、やっと解放されてゆくこの季節はやはり良いものだ。まとっていた一枚の布が脱ぎ捨てられると、隠されていた人々の明るい表情が村の中に映え、思わず元気に楽しくなる。それにつられて、今まで息を殺し眠っていたすべての生き物が目を覚ます。
  固くしまった雪の上を歩く、小さな黒い虫がいる。通称「雪虫(ユキムシ)」と呼ばれるこの虫は、村に春を告げる一番の使者かもしれない。2月から3月にかけての厳冬期でさえ、天気の良い日になるとどこからか現れて、雪の上を闊歩する。雪のない地方では、この虫を探すのにかなりの困難を強いられるのだそうだが、ここでは生き物の気配さえない時期の真っ白な雪の上で、その黒い姿はよく目立つ。
  しかしこの虫、意外にも謎だらけである。羽のないものとあるものがいるが、ないものが幼虫で、やがて羽が出てくるのだと思っていたら、なんと別種であった。しかもいろんな文献で調べてみたが、名前がはっきりと同定できない。写真は羽のあるほうで、クロカワゲラの一種であることまではわかったが、専門的に問い合わせても、それ以上はわからない。毎年見ているこんな虫でさえ、判別できないことに愕然としてしまった。春一番から、知られざる自然の深さを思い知らされ、立ちすくんでいる。この村の自然の深さは一体どこまで続いているのか。考えるだけで目まいがするのである。

文/柴田 喜久子


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