ノコンギク

ノコンギク

 田んぼに稲架(はき)掛けが並ぶ頃になると、道ばたに青紫色の小花の集まりが見える。属名の“Aster(アスター)”はギリシャ語で“星”の意味で、伊藤左千夫の『野菊の墓』の政夫が「民さんは野菊のような人だ」と言ったのは、ノコンギクのことだそうだ。でも16・7歳よりはもう少し年を重ねている方が似合いそうな気がしていた。
  先日、焼石岳で前を歩く二人に追いついた。一人は知人で、もう一人は九州から来たという75歳のT氏だった。「一昨日の鳥海山は雪で9合目まで、その前日は和賀岳へ」と話す笑顔が、昨今の中高年登山ブームで出会う人とは違った。私は焼石神社の寄付金箱の中身を回収していると、「そういう仕事に寄付と言っていいかどうか・・・」とお金を出してくれた。先になり後になり頂上に着いて「お疲れさま」と出された手のひらも、「東北の山は懐が深いですね」と緑の濃淡で連なる山並みに視線を向けている姿もなんだか温かい。
  下り、ブナの黄葉の明るい光を受けたT氏の背をホクホクした気持ちで見ながら歩いていると、「あぁ・・・こういう林がいいなあ」と胸の奥から吐息のように言って、カメラのシャッターを押していた。
  二十数年後、私はこういう気持ちでこんなふうに生きていられるだろうか。
  二人と別れた横林道で、草丈の高い濃紫のノコンギクが目に入った。T氏の笑顔が浮かんだ。いつか、また山で逢えますように・・・。

文/柴田 喜久子


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