サラサドウダン
ある年、六月のその日あたりがたぶん花の盛りではないかと、天馬尾根を歩こうと仲間と栗駒に向かった。
梅雨の中休みで、さほど蒸し暑くもなく、風が心地よく気持ちも弾んでいた。昭和湖を過ぎ、十字路を本峰には行かず、見晴らし岩頭あたりで周囲の展望を楽しんだ・・と思う。なにしろ、そのあとの光景だけが今、鮮明に浮かぶから。
ふと気がつくと、波の中に立っていた。
サラサドウダンの波。
緑と、淡い紅と白の波が、
風に揺れて流れてくる。
伏しては立ち上がり、うなだれては天を仰ぎ、目の前へ押し寄せてくる。
はるか前方にある秣岳が、微笑んでいるような気さえした。こんな日に来たおまえさんは幸せ者・・といっていると。
あれから、二度とあの花の波に逢うことができない。けれど、この村に住むようになって、さまざまな花に癒されて、どうやら幸せは続いているらしい。
文/柴田 喜久子