ヒツジグサ
「睡蓮沼」のことを覚えていますか。山に登りたいけれどなかなか出かけられないので、決まって
夏休みは、山の近くのキャンプ地に誘っていた頃のこと。「向こうが八甲田の山並み..」と言いながら、低い手すりに腰掛けて、写真を撮ったあの沼です。
深い青の水面に浮かんでいた少し赤みを帯びた葉の緑と、中心の黄色をかこむ十数枚のあの花びらの白さを、思い出すことはありますか。
あれは、未の刻に咲くからと名付けられたヒツジグサでした。ただ一種、日本に自生するスイレンです。少し寂しげだけど、潔さを感じます。
その後あちこちでヒツジグサを見ました。そして、今は「野鳥の森」で見ています。熱帯性のスイレンやハスのように華やかでなく、大きな池より小さく浅い池塘が似合っているような気がします。側を朽ちかけた木道が通っている静かな「野鳥の森」が一番似合うと言ったら、君は笑いますか。
君が何かを見つけたように腰を浮かせた瞬間、足も地につかずに写ってしまった写真は、実は私が持っています。三日咲いて、水中で実を結ぶヒツジグサを確かめたら、潔く君に写真を届けます。
文/柴田 喜久子