その1きのこの化け物![]() きのこの化け物 蛭川 高橋 久治
昔、昔、草深いお寺に、年をとった和尚と小僧が住んでいました。
ある日の秋、日もとっぷり暮れて庭から虫の音が、かすかに響いて来るのを二人で静かに聞いておりました。少し肌寒くなったので、「小僧〜そろそろ寝ようか」と言っていると、蓑を着て編み笠を深かぶかとかぶり、顔をかくした一人の男が、風のようにスッーと音もなく入って来ました。小僧はびっくりして和尚の後にかくれました。 うす暗い所で、身体のつくりもよく分らない男が、くねくねと腰をくねらせながら、手ぶり足ぶり踊り出しました。和尚と小僧は、ぽかんと口をあけて見ていたが、いつの間にか風のように、スッーと消えてしまいました。不思議な事があるものだ、と思いながら二人は寝てしまいました。 次の日、夜が来ました。昨日の夜と同じ時刻になると、昨夜と同じ格好をした男が二人現れて踊り出しました。次の日は五人になり、一日毎に人数が増えて、本堂一杯になりました。今度が鳴り物入りで、「スタダギ、ダギ、ダギ、トヒャラ、ヘレトロ、トヒャラ、ヘレトロ」と、それはそれは賑やかに踊ります。 和尚は「本堂で踊るなら、笠をとって踊れ」と、大声で怒鳴りました。そしたら「笠は造りづけ、ぬがれない」といって踊りつづける。 和尚はほとほと困りましたがふと頭にひらめいたものがありました。そこで一計を案じ、次の日、「小僧小僧、塩鯨買てこえ」と鯨を買わせて、大きな鍋に熱い鯨汁をこしらえて待っていました。 夜になると、ぞろぞろ笠かむりが現れて踊り出しました。和尚はそっと熱い熱い鯨汁を持ってきて、踊りの輪へパッとふりかけました。 すると、「チュウ、チュウ、タクタク」と音がして、汁をかけられた笠かむり達は、ヘナヘナとくずれました。それを見た残りの者達は、びっくりして、どんどん裏山の小道をわれ先と逃げていってしまいました。 朝になって、和尚と小僧が裏山に行って見ると、なんと山のくぼみいっぱいに、「山鳥もだし」が生えていた。そして、昨夜笠踊り達が鯨汁をかけられたと思われる辺り一面が、クチャクチャと萎びこんでいた。 和尚も小僧も、これにはびっくりして考えてしまいました。 和尚は考えに考えたあげくに、これは、「キノコがあまりたくさん生えたので、お寺へ化けて出たのだろう」と小僧に言って聞かせました。 それからは、笠踊り達の化け物はでなくなったと。 (終わり) |










