石童丸(1)
田子内 藤原 晴子
昔々ある山奥のあ城にな、若くて、男ぶりのええ殿様えだけど。
秋のある日、天気もええし、狩りに行ごうかと思って家来を、四、五人連れで、馬さのって山奥さ入って行ったけど。二里ぐらい歩い亡あたりの木の葉っこ落ぢで明るいどごさ、椿のやぶっこあったけど。
殿様だちの気配を聞いで、椿のやぶっこががサがサど動いだので、殿様ぁすばやぐ弓矢を番えで、やぶを目がげて、ピューンと矢を放ったけど。
したば、椿のやぶこがら、何がゴロンと飛びだしたけど。家来ぁ、早速その獲物を拾って殿様の前さ持って来たけど。その獲物はキツネだけど。まだ子ギツネだもんだがら、殿様はかわいそうだど思って、左のももさ刺さった矢を抜えで、家来がら手ぬぐえもらって、ケガしたキツネのももさまえで、「人のえだどごさ、出てくるもんでねえ、早ぐ逃げろ」って、やぶこさ放してやったけど。「何と優しい殿様だごど」と思いながらキツネは、見えねえどごさ逃げで行ったけど。んだども、年頃になった雌キツネは、優しい殿様どごさ恋してしまったど。そして、なんとがして、あの殿様のそばで暮らしでえど思うようになったけど。
あれか一月も過ぎで、雪こチラホラ降って、寒い晩方だけど。殿様の家の裏木戸、トントントントンとただぐ人えだけど。「こんただ暗ぐなってがら、だれだべ一」と、女中頭そ〜っと覗いて見たば・…。
〈次号に続く〉